Medical Interval

人を物を知ること、其れ即ち己を知ること也。

【論文紹介】慢性うつ病、反復性うつ病に多剤併用療法は勧められない.

現在精神科を研修中でありまして、論文を読んだので簡単に紹介します.

 ※自分は見習い研修医であり、精神科専門医ではありません.

Combining Medications to Enhance Depression Outcomes (CO-MED): Acute and Long-Term Outcomes of a Single-Blind Randomized Study | American Journal of Psychiatry https://ajp.psychiatryonline.org/doi/full/10.1176/appi.ajp.2011.10111645 

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慢性うつ病(少なくとも2ヶ月以上)または再発したうつ病の患者さんに多剤で治療するのと、単剤で治療した場合、結論に変わりないという結果の論文でした.

一重盲、ランダム化試験で信頼性はかなり高そうです.

急性期と慢性期を12週と7ヶ月で分けているのが面白いですね.12週は急性期になるそうで、うつ病治療の薬物治療はしばらく飲み続けることで効果が得られるという背景もあるのでしょうか?実臨床経験が浅いのもあってまだ僕にはわかりません.

批判的な観点から読んでいくと、初発については議論されていません.また、今回テストした薬剤の組み合わせのみ適応されること.実際に再発したらいままで使っていた薬でいいのかどうかはこの論文ではわからない.これらのポイントがあげられます.

どうやら引用されている論文には「併用がいいよ」という論文もいくつかあるようで…次はそちらを読んでみようと思います.

”主剤”という概念がまだイマイチよく分かっていない見習いですが、うつ病の薬物治療は精神科医の腕の見せどころなようで、面白そうですね.

Mechanismで理解する熱中症(その2)-予防(水分と塩分について)-

前回は熱中症の”病態”について考えました。

今回は熱中症の”予防”について考えたいと思います。

※一般向けの記事です。ご了承ください。

さて、早速予防について話していきたいと思っておりますが、実は「予防には種類がある」ということをご存知でしょうか?予防には種類があるということを事前に知っておくと「この記事はXX目的の予防について話しているのだなあ~」と理解をスムーズにすることができます。

予防には1次、2次、3次予防があります。

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”予防の種類と性質”については今回は詳しくは説明しまませんが、今回は「熱中症の”1次予防”」について説明したいと思います。

 

※記事が長くなりそうです。まずは水分と塩分について説明しましょう。

※一般向けです。

 

今現在健康体であれば、塩分適度に、こまめに飲め!!!!!

 

まとめちゃうとこういうことなんですが(笑)、もう少し詳しく説明したいと思います。

①水分と塩分の1日必要量について

前回の記事に示したとおり、熱中症の病態(体内のメカニズム)では」と塩分」の欠乏がメカニズムの過程のひとつにあります。

よって、水分と塩分を適度に摂取することが重要となります。

それでは”適度に”とは具体的にはどのくらい必要なのでしょうか?

注意:以下の話は腎機能などが正常であり、水、電解質バランスに対してホメオスタシスが正常に機能している人を仮定しています。

1日に必要な水分を考えるとき、医学的にはin/outバランスを考えます。

・(維持水分量)=(尿量)+(不感蒸泄)+(汗)+(糞便)ー(代謝水)

細かいことはここでは省略しますが、汗をあまり過かない環境では大人で2000mL、高齢者や痩せ型の人では1500mL程度と言われています。汗を書いている場合は+500~1500mL程度必要なので、成人では2500~3500mL程度です。

・塩分(Na+)については4~6(g)とされています。医療では電解質は単位リットルあたりの電荷量であらわし、これは68~102(mEq)に相当します。(Naは1の電荷ですので、mEq = mmolです。)

・ついでにいうとカリウム(K+)の1日必要量は20~40mEqとされています。 

ですので、上記の条件

・水:2,000~3,500mL Na+:68~102mEq K+:20~40mEq

を食事と飲み物から取れば言いわけです。

しかし、水分は3500mL以上とっても腎機能が正常であれば、尿として排泄されますし、日本人の日常的な食事であれば塩分(Na+)は6g(多くの場合はそれ以上)摂取できています。カリウムも同様であり、腎臓が調節してくれます。

よって汗をあまりかかない日常生活では飲み物の塩分量はあまり気にする必要はありません。

日常生活で水分が足りてないか?それには良い指標があります。

尿が黄色くなってきたら軽度脱水のサイン

です。よって、

おしっこが黄色くならない(透明~淡黄色)程度に水分を摂る

が汗を過かない日常生活では水分の指標になります。

 

②お水, お茶よりOS-1やスポーツドリンクのほうが吸収が速い。

お水でなく、スポーツドリンクが推奨されているのはもちろん塩分が一緒にとれるというメリットもありますが、そもそも”水分と塩分を一緒にとると水分の吸収が早い”ということが知られています。

理由は小腸における水の吸収メカニズムで説明されます。

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煩雑な図表ですみません…上図では細胞の上側が腸管の内腔、下側が体内(腸間膜の組織)を表しています。

Na+分子はATP(エネルギー)を用いた能動輸送ですが、水分子は単純に浸透圧で吸収されます(正確にはアクアポリンという分子が絡んでいますがここでは省略しています)。浸透圧による水の移動とは、しょっぱい塩水と薄い塩水の間で水の移動がおこる理科の授業でご存知の通り、塩分の濃度差が必要です。水分子はNa+の能動輸送によって生じた(間腔)ー(細胞質)、(細胞質)ー(組織)間のわずかな浸透圧の差で移動するので、水の吸収にはそもそもNa+の存在が必要になります。よって、お水, お茶よりOS-1やスポーツドリンクのほうが吸収が速くなります。

しかし、当然上述したNa+分子は食事にも大量に含まれています。よって、あまり汗をかかない日常生活においては、無理にスポーツドリンクを取る必要はなく、お水やお茶で十分です

運動時はスポーツドリンクが適しているでしょう。

③運動時は”こまめに”水分と塩分を摂る。

激しい運動で大量に発汗しているときはみるみる水分と塩分が消失していきます。消失分を予め補おうと一度に大量に水分と塩分を摂取しても、運動前(発汗前)は上述した腎臓の調整機能がはたらきそもそも尿として排泄されてしまいます。

よって、発汗時は”こまめに”水分と塩分を摂る必要があります。

 

以上まとめると、熱中症の1次予防における、水分と塩分については

・十分に水分を摂る(尿が黄色い水分不足のサイン)

・(特に運動時は)水分塩分”同時に”摂る

・汗をかいている時は水分塩分”こまめに”とる

 ※腎機能など人体のホメオスタシスが正常であることが条件

ことが大切です。

ながながとお疲れ様でした。読みにくい文章にお付き合いいただきありがとうございます。

 

次回も予防の話を続けようとおもいます。

Mechanismで理解する熱中症(その1)-病態-

知り合いが熱中症で運ばれました。

26歳です。自分では水分(+塩分)は摂っていたとのことですが、大量発汗、めまい、頭痛、嘔吐でQQ搬送。熱中症(おそらくⅡ度まで進行)の診断とのことでした。

幸い命に別状はありませんでしたが、

「まさか自分が熱中症になるとは思わなかった」そうです。

自分が人間である以上、

病気を知ること 自分を知ること。

と思い、熱中症の病態について書いていきたいと思います。

 ※一般向けの記事です。

熱中症とは「暑熱環境における身体適応障害によって発症した状態の総称」とされています(朝倉第10版)。この総称というのがポイントであり、”片頭痛”のように一つの病気を指すのではなく、病態とその結果なりうる症状、すなわち症候群であることがわかります。

要するに、様々な症状が起こるのです。

昔は「熱疲労」や「熱射病」など症状と重症度で病名を分けていましたが、今は「熱中症」に統一され、「Ⅰ度 → Ⅲ度」までの重症度で分類することとなっています。

それでは具体的にはどのような症状があり、重症度はどのように分類されているのでしょうか?

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上の図のようにⅠ度ではめまい、大量発汗、失神、筋肉痛、こむら返り(筋肉が”つる”)といった症状がでます。驚きなのは大量に発汗している時点でⅠ度の熱中症が疑われるということです。

熱中症はどんどん進行していく病気です。

Ⅱ度になると、頭痛や嘔吐、倦怠感、集中力、判断力の低下がおきます。ここで怖いのは、嘔吐や倦怠感、集中力の低下が起こると、誰かに助けを呼ぶことが難しくなる可能性があることです。助けを呼ぶ判断が低下する、助けを呼ぶにも声が出せない、などといったことから、対応が遅れる可能性があります。Ⅰ度であれば、その場の応急措置で対応可能かもしれませんが、少なくともⅡ度熱中症であれば医療機関を直ちに受診し診断、治療を受ける必要があります。

「XX高校で体育館でN人が気分不快感、嘔吐を訴え救急車ではこばれました。」というニュースが今年ありましたが、熱中症の分類としてはかなり進行していたと考えられます。みんなが体育館で整列している環境で訴えを上げにくいという心理的要因もあった可能性がありますね。

Ⅲ度では中枢神経症状や、肝・腎機能障害、横紋筋融解症、DICなど、いよいよ命に危険が及ぶ症状が出現します。早急に対応しないと死亡に至るケースがあります。

 

いろいろと症状を上げましたが、体内で起こっているメカニズムは以下のとおりです。

 

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カニズム(病態)1stステップとして、体温の上昇、発汗があります。2ndステップとして、体内の水分の枯渇、塩分(Na+)の欠乏があり、症状として現れます。

・”大量発汗”、”疲れ”を自覚した時点で熱中症は始まっている。

・体内のメカニズムは多岐にわたり、極めて重篤、死に至る可能性がある

ことを知っておくことが大切です。

 

カニズムを知っていれば具体的な”予防”について考えることができます。

次回は予防について書いていこうと思います。